「未来を創造するスゴいサービス&プロダクト」は、未来社会のあり方を変える事業を展開している企業の中の人にインタビューをしていく不定期連載です。元社長であり元キャリアカウンセラーでもあるインサイトハッカーの黒田悠介氏が未来のビジネスや働き方を模索します。
自らのキャリアを見直す過程で様々な業界への会社訪問を繰り返し、価値観が大きく変わった経験から仕事旅行社を創業した田中翼氏。様々な職場を訪問し仕事を体感できるツアー「仕事旅行」を提供する意義と、目指している世界観についてお聞きしました。
黒田:ユーザーとして仕事旅行のサービスを利用して「伝統技術ディレクターになる旅」 に参加したことがあります。職人と話したり、実際に伝統技能が活用されている空間を訪れたりと、非日常の体験ができて楽しいものでした。参加者の方も様々なバックグラウンドを持っていて、参加目的も様々といった感じですね。
田中:ご利用ありがとうございます。他の職場に行って仕事を体験できるサービスとして、黒田さんの言う「非日常」というのはキーワードの1つですね。そういった非日常の体験を通じて、参加者の仕事の可能性を広げることができれば、仕事旅行としては成功だと思います。私たちがやっていることはマッチングで、仕事における自分の可能性を広げたいと思う人と、会社の価値観や社風を伝えたい企業を繋ぐ事業をしています。
黒田:このサービスを始めた理由をお聞きしたいです。
田中:前職で入社から4、5年経って落ち着いたときに「ずっとこの仕事を続けていくのだろうか」という疑問が湧いてきたんですよね。周りに流されて就職を決めたこともあり、何がやりたいのかも自分でもわからない状態になった。そのような悩みを解決するために情報収集として色々な職場を直接訪問していくことにしたんです。すると本当に色々な価値観や社風があるんですよね。1つの会社に所属していたときには気が付かなかった多様性が広がっていることに衝撃を受けました。
黒田:結果として田中さんがやりたいことは見つかったのですか?
田中:やりたいことが見つかったというか、「自由にやっていいんだ」という気づきを得ました。両親が教員ということもあり、もともと人の可能性を広げる活動に興味があったことが仕事旅行社の創業に影響しているかもしれません。私が職場を訪問することで可能性が広がったように、この体験をもっと多くの人に提供できたら素晴らしいなと思ったんです。最初は繋がりのある身近な職場体験の提供から始めましたが、今ではおかげさまで140以上の職場への仕事旅行が申し込めるようになりました。
仕事旅行で職場体験をすることが新たなキャリアの一歩に繋がることも多いという
黒田:どのようなタイプの仕事旅行はありますか?
田中:パターンで言うと大きく分けて3つですね。1つ目がビジネススキルアップを期待できるタイプですね。2つ目に、カフェや花屋など、自分が今後お店を始めるときの参考になるタイプ。3つ目が非日常を味わうタイプです。黒田さんが参加されたような職人と出会う仕事旅行は3つ目のタイプに当てはまるのかな。一番人気があるのは、1つ目のビジネススキルに繋がるタイプです。
黒田:今後増やしていきたい仕事旅行のタイプはありますか?
田中:タイプとしては、期間にバリエーションを持たせようとしています。弟子入りのような感じで5日間以上の体験を通じてスキルを身につけるタイプの職場体験を提供する「仕事留学」というサービスを1ヶ月ほど前に始めました。仕事を休まず参加できるように、週末だけで開催するタイプもあります。
黒田:良いですね。これはユーザーからの要望があったのでしょうか。
田中:ユーザーからは「もっと深く学びたい」という要望がありました。1日では、ノウハウは知ることができますがスキルを身につけるには全然足時間が足りませんから。もちろん、ユーザーのメリットだけではなくて受け入れ先にとってもメリットはありますね。仕事旅行が終わる頃には、スキルを身につける様子も全部見ているし、お互いに人間関係が構築できていますから、そのまま採用につながったりすることもあります。
黒田:面白そうですね。是非私も参加してみたい。仕事柄、この「社内起業プロデューサーになる旅」が気になります。
田中:それは3ヶ月かけて事業企画書を作る仕事留学ですね。数時間のセミナーや書籍からは得られないプロデューサーのノウハウを、実際に体験しながらじっくり学ぶことができます。社内起業を目指している方や、企画職の方にもオススメです。
仕事留学は時間をかけてしっかりスキルを身に着けたい人にぴったり
黒田:サイトを見ると、仕事留学のほかに「仕事散歩」というのもあるんですね。
田中:はい、サービスが初級中級上級で分かれているイメージですね。仕事旅行は中級で、仕事留学が上級です。仕事散歩は気軽に参加できる数時間の職場体験といった感じ。参加者が期待するものもそれぞれ分かれていますね。仕事散歩はライトに知見を広げたい人向け、仕事旅行は仕事や職場について具体的な情報を知りたい人向け、仕事留学は明確なスキルアップをしたい人向けです。
黒田:「仕事〇〇」というラインナップ以外にも、「おためし転職」というサービスもあるんですね。
田中:おためし転職は、転職を前提にしている職場体験です。実際に体験してお互いの素顔を知った上で転職を決めることができます。ミスマッチが少ないので、転職者にとっても企業にとってもメリットがある取り組みですね。
転職にも職場体験というスキームは有効ですね
黒田:確かに職場体験は転職という文脈にもマッチしますね!話の流れで「for Business」についてもお聞きしたいと思います。
田中:これは企業に対して1日の仕事旅行を提供するサービスですね。「仕事に役立つ知識が得られた」「働くことが楽しみになった」という一般ユーザーの声を受けて、企業研修としても利用できると考えたわけです。
黒田:そうすると、時間軸で短期中期長期のタイプがあり、対象も個人向けも企業向けもあると。
田中:はい。どのサービスでも共通しているのですが、こういったサービスを通じて素朴に「一人ひとりがもっと自由に仕事ができる」世の中になればと思います。好きだと思える仕事に出会うハードルがいくつもありますよね。まずその仕事の存在を知らない、知れたとしてもノウハウがない、ノウハウがあってもスキルがないとか。そういうハードルのそれぞれに対して、これまで紹介した仕事旅行社のサービスを活用して飛び越える手伝いがしたい。
体験と学習を融合した企業向けの研修サービス
黒田:情報と体験によって「やりたいこと」に出会う可能性を高めるわけですね。田中さん自身の「やりたいこと」もお聞きしたいです。
田中:私自身は、地域活性に興味があります。特に自分の生まれた地元である神奈川県平塚市ですね。具体案は割愛しますが、簡単に言うと多様性を高めるために外部からもっと人を呼びこむ施策を打つのが良いと思っています。例えば、平塚市は関東のベッドタウンになり得る立地にあるので、教育などをフックにしたコミュニティを作るとか。
黒田:仕事旅行社との共通点があるのが興味深いです。コミュニティをオープンにして外側と緩やかに繋げて多様性を高める点が共通していると思います。
田中:多様性というのは重要なキーワードだと思います。戦後の復興みたいに、人や組織が全体として一方向に向かうべきタイミングもあったと思います。でも、現在の日本のように成熟した社会では人も組織もバラバラな方向を向くようになるのは避けられません。成熟社会では価値観の多様化は構造的な現象なんだと思います。働き方の多様性も同様ですね。
黒田:仕事旅行社にとっては追い風ですね。
田中:そうですね。地域活性に注目が集まっているのも、都市集中の反動としての住む場所の多様化、人生の多様化だと言えます。その意味で、地方に仕事旅行を提供していくことで地域活性に貢献していくことも、私たちの役割かもしれません。黒田さんのようなフリーランスも働き方の多様性の1つですね。そういう意味では、クラウドソーシングのようなサービスともどこかで交わる可能性があります。仕事旅行では人に対するインプットの場で、クラウドソーシングでアウトプットする、という関係性がありえます。
黒田:仕事旅行社のサービスはスキルのシェアリングとしての意味合いもありますし、地域活性、クラウドソーシングといった注目の潮流とも交わる可能性を持った事業だと感じました!本日はどうもありがとうございました。
インタビュアー
黒田 悠介 フリーランス インサイトハッカー
日本のキャリアの多様性を高めるために自分自身を実験台にしている文系フリーランス。ハットとメガネがトレードマーク。ベンチャー社員×2→起業→キャリアカウンセラー→フリーランスというキャリア。主な生業はインサイトハッカー(プロインタビュアー)とディスカッションパートナー(壁打ち相手)で、新規事業の立ち上げを支援しています。個人では「文系フリーランスって食べていけるの?」というメディアを運営。詳しい経歴はこちら。