【特集】新しい働き方を創る仕掛け人
「新しい働き方を創る仕掛け人 」は、日本で働き方をテーマにした事業を展開している企業や面白い働き方を実践している人にインタビューをしていく不定期連載です。元社長であり元キャリアカウンセラーでもある文系フリーランスの黒田悠介氏が未来の働き方を模索します。
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20歳の時に古着屋を開業するという異色のキャリアからスタートし、複数のベンチャー企業での事業経験を経て2014年9月に株式会社Casterの創業した中川祥太氏。現在の日本におけるオンラインワークの課題を需要面と供給面の両サイドから解決し、場所に囚われた働き方を変えることを目指した事業の意義や、日本の働き方についてお話を伺いました。
黒田:話題のリモートワーカー事業についてお話を伺い、事業を始めた問題意識から未来の働き方まで話を広げられたらと思っています。よろしくお願いします。
中川:はい、お願いします。どんなことをしているのか、ということからお話すると、Caster社は2014年9月に創業しました。リモートワークを当たり前にすることを目指している会社です。そのためにCasterBizというオンラインビジネスアシスタントの事業と、在宅派遣というリモートワーカーの派遣サービスをやっています。
黒田:中川さんのおっしゃる「リモートワーカー」というのは、どういった意味合いですか?
中川:定義が非常に曖昧なものではありますね。そういった曖昧な部分を一歩ずつ固めていきたいと考えています。今は、リモートワーカーとはこういうものだ、こういうことができるんだ、という定義を作っている段階ですね。ただ、昔からテレワークなどの文脈がありました。そういう意味では、特にそういった呼び方と住み分けをしたいわけではないです。
黒田:最近話題になっているクラウドワーカーなどとは違うものでしょうか?ちょっと区別ができていないのですが・・・
中川:あくまで雇用されている状態で、働く場所が自由になった働き方をしている人をリモートワーカーと呼んでいます。クラウドソーシングのプラットフォームを活用するクラウドワーカーや、雇用されている状態ではないフリーランスなどとは根本的に違うものです。従来の働き方から「働く場所」という自由を1つ得ている状態と言うと分かりやすいと思います。
黒田:つまり、Caster社の事業はクラウドソーシングとは違うんですね。勘違いしていました。
中川:クラウドソーシングはサービスとユーザーの関係ですよね。一方でCasterBizの場合は雇用の関係です。全員をCaster社の社員として雇用していて、給料という形で払っています。クライアントから依頼された仕事を「やってください」という形でリモートワーカーに依頼しています。
黒田:そういうことか。仮に仕事がないとしても社員である以上、給料は支払われるわけですね。そういった仕組みで目指しているのはクラウドソーシングとは別のものということでしょうか?
中川:起業したきっかけでもあるので、そこからお話しますね。以前私はイー・ガーディアン社でクラウドソーシング系の会社さんとお付き合いがあったのですが、やっぱり雇用というルールがないので、激安なんですよね。最近ようやく課題が顕在化していますが、構造上の問題で避けがたいものなんですよね。サービスとしてそこにテコ入れできるモデルではない。
黒田:確かに。私もフリーランスとして感じている課題です。
中川:その一方で、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)という世界では、クラウドソーシングのようなオンラインの仕組みをうまく活用できていないという現状があります。そこでCaster社では高いレベルの人材を選定することで単価を高めて、インターネット上でリモートワーカーにBPOできるサービスを作ったというわけです。
CasterBizでは高いスキルを持ったリモートワーカーが多数活躍している
黒田:ワーカーにも企業にとってもメリットのある取り組みですね。日本の働き方も変わってくるかもしれません。
中川:働きたい人たちが働いて、働かなくていい人たちが働かなくていいという、当たり前の状態になるといいですね。そういった大きな文脈のなかに、複業や女性活用支援なんかも含まれていると思います。働かなくていいということに関連してお話すると、そもそも今の時代は人間が働くことの8割はムダなんですよ。
黒田:8割ですか!かなりの割合ですね。
中川:人間自体は非常に汎用性が高い存在なので、その人間に特定のことだけさせる時点でムダが生じていますよね。オペレーションが固まっているのであれば、機械にさせた方がずっと生産的です。
黒田:今後、AI(人工知能)が進化した場合すると、さらに生産性が高まりそうですよね。今よりもさらに人が働かなくてもよくなって、働くこと自体がムダになるかもしれません。
中川:大前提として人間は働かなくなっていきますよね。倫理観の問題もあるでしょうし、すぐにそうなるわけではないと思いますけど。働くこと自体がムダだと認めながらも、娯楽のために働くようになる。
黒田:もはや趣味ですね。
中川:そうですね。人間が動くことがそもそもムダなんですよね。この変化はもっと以前から、機械化によって脈々と進んできています。
黒田:機械化はブルーカラーの仕事を奪い、現代のIT化はホワイトカラーの仕事を奪いつつあるように思います。
中川:ブルーカラーとかホワイトカラーみたいな区別もなく、そもそも人間の1人あたりの生産性が向上し、さらに人口自体も増え続けています。もはや消費しきれないほどの生産性ですよね。働く理由がどんどんなくなっていく。
黒田:将来的に働く必然性がなくなっていくなかで、段階的に色々な変化が起きそうです。最初に起きる変化はどういったものが考えられますか?
中川:一番ムダは何かというと、通勤が考えられますよね。残業もそうです。労働がムダになっていく時代には、できるだけ残業してほしくないわけです。
黒田:そうすると、リモートワーカーの数は増えそうですね。一般的な働き方になりそうです。これは、企業における組織の形にも影響するのでしょうか?例えばピラミッド型の組織とクラウド型の組織の関係でお聞きしてみたいです。
中川:ピラミッド型の組織と対峙するのはホラクラシー型ですよね。リモートワーカーという存在はどちらに対しても共存できると思います。どちら単なる組織のフォーメーションに過ぎないですし。サッカーの前半と後半でもフォーメーションを変えるように、状況に応じて柔軟に変わっていくものだと思います。リモートワーカーの存在は、組織の形を変革するというよりも、そういったフォーメーションの打ち手の数を増やすものだと思います。
黒田:では、リモートワーカーの潮流によって企業が変わらざるを得ないポイントはありそうでしょうか?
中川:日本に限っていうと、新卒一括採用での固定化された雇用に対して、中途人材の採用においては働き方の柔軟性を高めようとしていますよね。企業にとしても働き手としてもリスクヘッジをしているわけですが。そういった中途人材の入り口の1つとしてリモートワークという働き方は重要度を増していくのではないかと思います。
黒田:新卒の就活の場面でも変化が見られそうですね。
中川:新卒でも選択肢の1つとしてあり得るでしょうね。新卒に限った話ではなく、あらゆる人とって働き方の選択肢の1つになっていくという必然的な流れです。
在宅派遣では的確な人材を全国区から探し出すことができる
黒田:そういった必然的な流れに対して、Caster社さんが存在することでできることがある、ということでしょうか。
中川:クラウドソーシング系の企業がリモートワークの特性を理解していない。それによって単価が低いなどの壁に当っているわけです。私たちはそういった現状打開の1つの選択肢を提示しています。実際、Caster社としても優秀なリモートワーカーを雇用できていますし、仕事の単価も高い状態を作れています。今後、いろいろなプレーヤーが被せてくる中で、競合調査の対象になるでしょう。それはむしろ大歓迎で、そうやって私たちの考えが広がっていけば良いと思っています。
黒田:ファーストペンギンというか、問題提起をした開拓者としての意義がありますね。
中川:そうですね。この問題提起は企業だけに向けたものではありません。是非働き手の皆さんにもリモートワークや「働く意味」について考えるきっかけにしてもらえたらと思います。
黒田:事業の話だけでなく、「働き方の未来」や「企業と働き手の関係性」についてお伺いできました。本日はありがとうございました!
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インタビュアー紹介
黒田 悠介(文系フリーランス)
日本のキャリアの多様性を高めるために自分自身を実験台にしている文系フリーランス。ハットとメガネがトレードマーク。ベンチャー社員×2→起業→キャリアカウンセラー→フリーランスというキャリア。主な生業は人間中心ビジネスデザイナー(HCBD)で、新規事業の立ち上げを支援しています。個人では「文系フリーランスって食べていけるの?」というメディアを運営。