知人に教えられた「Opendesk」というスタートアップ企業。東ロンドンの川沿いに位置し、周辺には多くの製造系企業が立ち並ぶ。
彼らは三方良し!な素晴らしいクラウド家具プラットフォームを運営している。
仕組みはシンプル。世界中のデザイナーのデザイン家具がWEBサイトに並んでいる。好きな家具を注文すると地元の製造元から見積もりが何件も来る。あとは選んで届くのを待つだけ。
配送代を抑えることで通常より安く、地元から発送されるため早く、環境負荷も少ない。共同創業者のJoni Steiner氏に話を聞いてみると、どうやら彼らは単なるプラットフォーム企業ではないようだ。
破壊的にサプライチェーンを変える
ーーそもそもなのですが、どうやってOpendeskのアイディアを思いついたのですか?
Joni氏:共同で創業したNickとは大学で一緒に建築を学びました。大学の卒業と同時に、大学の仲間と一緒に「00」(ゼロゼロ)というデザイン会社を設立しました。建築家やデザインのインパクトを広めたいデザイナーとたくさんのプロジェクトをやりましたね。 リサーチからワークショップまで幅広く手がけました。
Opendeskのきっかけはあるソフトウェア企業からオフィスのデザインを頼まれたことから始まります。彼らはロンドンとニューヨークにオフィスがあり、オフィスのデザインだけでなく家具もデザインできないか?と依頼されました。彼らはお店から買うのではなく、すべてをデザインしたかったんですね。
デザインを考えていく中で「CNC」という加工技術に出会いました(コンピューターによる木材自動加工)。デザインのデータを読み込ませることで、木材を自動的に正確に加工できるのです。これでCNCを持っている工房であれば、ロンドンでもニューヨークでも同じ家具の制作が可能になりました。
つまりデータを共有すれば、地元の工房から製品がどこでも作れるということに気がついたのです。 そして「21世紀型のサプライチェーン」を変えられるかも知れないと感じました。
遠いところから船で運ばれ、1ヶ月近く待ち、 輸送費も払い環境にも良くない。しかし、今はデジタルツールによってPC上でほとんどのモノがデザインできる。実際の加工もCNCがあればどこでも可能ですよね。 そこでサプライチェーン自体を固定のものではなく、地元密着したネットワーク型のサプライチェーンにすることができると思ったのです。
ーーなるほど、どんなお客さんがいるのでしょうか?
小さい椅子などは個人のお客さんなどが購入しています。納期も早いし環境にもいいので、企業も大企業からスタートアップまで幅広く提供しています。デザイン会社やテクノロジー系、環境団体のグリーンピースなどですね。
会社の成長と共にリピーターになってくれて、口コミで広げてくれたりしています。
ーー反応はどうでしょうか?あとデザイナーや地元の工房の反応も知りたいです。
Joni氏:今のところは上々です。 工房へは新しい仕事を送っている事になりますし、カスタマーは地元が好きですし、デザイナーに関してはコンペティションをして送られてきたデザインから5つくらいを選び実際に製品化までします。デザイナーの名前を売る機会にもなって収入にもなります。
デザイナーはライセンスを選ぶこともできて、クリエイティブ・コモンズにすることもできます。デザイナーにとっては、他の人が 自分のデザインをどう変えたり進化させるのか見ることもできて、そこも興味深い点だと思います。
ーー開発まで苦労されたことはなんですか?
Joni氏:いろんな問題がありましたが、WEBサイトを通してストーリーをどう伝えるかということです。複雑な部分もあって、毎日少しづつWEBサイトを変えています。
ときどき電話してくるお客さんもいますが、大半はWEBサイトから注文します。多くのデザインや工房のデータを管理することが大変ですね。最初は建築デザイン会社として始まりましたが、今はもはやテクノロジー企業です(笑) あとは製品の質の管理もあります。英語をうまく話せない工房もありますからね。
ーー他国への展開は考えていますか?
Joni氏:ん〜例えば、ブラジルのデザイナーでデニスさんがいるのですが、彼が地元の工房を探してくれたり、翻訳をしてくれたりしています。 こういった形でまずは始められたらなと思います。簡単に展開できるところもあると思いますが、そうでない地域もありますからね。
ーーなるほど、では次のステップを教えてください
Joni氏:カスタマーや工房の体験を向上することですね、あとは違う素材や柄などを使ったデザインを増やしていきたいです。当初はとてもシンプルな素材と家具から始めました。新しい素材を使ったサンプルがすでに幾つかあるのですが、 地元のリサイクル素材を使ったりする予定です。
キャッシュフローとイノベーションの関係
インタビューを通して注目するべき点は2つあると感じました。「Opendesk」がデザイナーと地元の工房と顧客を繋ぐことでシェア型の水平分業モデルを確立していること。
2つ目は、マネタイズはプラットフォーム手数料によるストック収入だけでなく、オフィスのデザインを請け負うことでBtoBによるフロー収入もあるということです。
彼らは単にリスクを取り、投資家の資金で生き残っているスタートアップ企業ではなく、多様で堅実なビジネスモデルがあるからこそ、長期的な目線で着実にイノベーションを起こせる企業となっている。ビジネスモデルのポートフォリオを考える上でも非常に参考になる企業でした。
ライター&キュレーター
小檜山 諒 フリーランスライター&キュレーター
世界中の面白いアイディアを集めたブログを運営中。「問いが変われば、答えも変わる」を信じて、アイディア発想など研究しています。ハッとさせられるようなアイディアが大好物。アイディアデザインコンサルタント。モットーは「LESS IS MORE」