日本では高齢化が進むにつれ、医療、介護の問題が大きく取り上げられることが大変に多くなりました。その中で、もっともよく聞かれる問題の一つが『認知症』です。日本も全国各地で認知症予防や、認知症の方と家族の方のためのコミュニティの創出が行われるようになってきています。そのモデルケースの一つとして注目すべきは、オランダの『Hogewey』(ホグウェイ)です。
ホグウェイはアムステルダム郊外にある認知症の方だけが住む介護施設です。ここでは自分のライフスタイルに合わせたカテゴリーを選び、自分と同じようなバックグラウンドをもつ方々と共同生活を送ることができます。例えば、次のようなグループがあります。
- 伝統・職人グループ(配管工や大工など、自分の職業を誇りに思っている職人型のグループ。オランダ文化・伝統を重んじて暮らす人たち)
- クリスチャングループ(キリスト教に深い信仰を持つ人。定期的に教会に通う)
- 文化人グループ(音楽や芸術を楽しみたい人たち。劇場、映画、博物館、コンサートに行くのが好き)
- 富裕層グループ(上流階級向けの生活様式)
- 家庭的な人グループ(家事などを大切にし、家庭的な人たち)
- インドネシアグループ(オランダから独立した直後に移り住んだ、インドネシアにルーツを持つ人)
- 都会グループ(都会的な生活や外出が好きで、カフェやレストランでの食事を楽しむのが好き)
また、敷地内には、レストラン、スーパーマーケット、シアターなどが設置されており、自由に利用することができます。各店舗のスタッフも認知症ケアの研修を受けており、住人も安心して活用することができます。
施設の中の建物などは、認知症をもった人々の能力を引き出すような空間デザインで作られています。その場がレストランであるか、シアターであるかなどを認識しやすくし、どのように振る舞えばよいかもわかるようになっています。例えば、自室のインテリアは、慣れ親しんだライフスタイルに合ったもので装飾され、流れる音楽、食事もライフスタイルごとに異なっている。
認知症を持った方は、最近の記憶を保つことは難しいのですが、昔の記憶はしっかりと保たれていることが多く、過去の自分の生活に合ったものに囲まれて過ごすことで、混乱することなく安心して生活を送ることができます。
ホグウェイのような介護施設を現状の日本に作ることは制度の問題もあり難しい面もあるでしょうが、参考にできる面は多くあります。例えば、地方では都市部と比べて、利用できるサービスが少なく、高齢者の抱える問題を解決するには「まちづくり」そのものからのアプローチが必要となってくることも少なくありません。誰もが住みやすい環境をデザインするにあたり、Hogweykのコンセプトからは学ベルところもたくさんあるでしょう。
日本でも高齢でも安心して暮らせるように、今あるコミュニティを見直し、リデザインすることが求められているのではないでしょうか。これまで地方は人口が減る一方であしたが、IT技術の進歩や価値観の多様化によって、都市で働くというのも1つの手段。地方へ移住する若者も増えています。それにより、これまでの地方にはなかったスキルを持つ人材が現れ始めていることを痛感します。今という時代は「まち」をデザインしなおし、暮らしやすい新たな地域、コミュニティを作るチャンスなのではないかと思っています。
株)リハックス 代表取締役。理学療法士として高齢者、小児のリハビリテーションに携わる。奈良県でリハビリ訪問看護ステーションやまとを運営。趣味は映画、アート鑑賞。