「未来を創造するスゴいサービス&プロダクト」は、未来社会のあり方を変える事業を展開している企業の中の人にインタビューをしていく不定期連載です。元社長であり元キャリアカウンセラーでもある新規事業ディスカッションパートナー(NBDP)の黒田悠介氏が未来のビジネスや働き方を模索します。
32歳まで順調なキャリアを歩みながらも震災を期にそれらを手放し自分自身を見直したという横石崇さん。それまでの経験や問題意識の集大成として実現させたTWDW(TOKYO WORK DESIGN WEEK)は”働き方のFUJI ROCK FESTIVAL”を標榜し大きな反響を呼んでいます。さらに今年5月には新会社である「& Co.(アンドコー)」を設立。彼の目に映る働き方の未来や現代のコミュニティのあり方についてお話を伺いました。
黒田:毎年、TWDWのイベントに参加していたのですが、オーガナイザーである横石さんとこうしてお話するのは初めてですね。
横石:いつもありがとうございます。2012年にスタートして、今年で4年目になりました。今年のキックオフイベントは6月7日に開催予定で、これから準備が始まるので、楽しみです。
黒田:私も楽しみです。そういえば今年5月に新会社「& Co.」も立ち上げられましたよね。
横石:そうですね。前職は、ベンチという会社でTWDWを始めたり、メディアプロディースやスクール関連の事業をしたり、コミュニティのサポートをしたりと3年間、色々やりました。その中で、”ブランディング”という伝え方や”ピープルマネージメント”と呼ばれるような組織づくりにまつわる問題は改めて重要だなと感じるようになりました。その問題を解決するための一つの軸が”コミュニティ”だと考えています。じゃあ、さらに実験的にコミュニティにまつわることをいろいろやってみようということで独立して「& Co.」という会社を立ち上げました。
黒田:TWDWもコミュニティだと思うのですが、横石さんにとって「コミュニティ」は一貫したテーマのようですね。
横石: 人間は百人百様で、皆の心を動かすには限界があるということです。一方で1to1で欲求を満たしていくのにも、まだコストや制限がかかって難しい部分もある。その両者の中間にあるコミュニケーション単位に「コミュニティ」があるわけです。仰るとおりTWDWもコミュニティだし、属性を超えて集まってくる多様な人達の輪に可能性を感じています。いまやGoogleやadobe、EVERNOTEなどの企業にはコミュニティマネージャーという職種があり、様々なアクティビティが試されています。私自身もご一緒する機会が多く、Webやリアルイベント、雑誌などのコミュニケーションツールを通じてコミュニティを運営してきた経験が「& Co.」に繋がっている感じがします。
黒田:横石さんはコミュニティを創るときにどのようなことを意識していますか?
横石:よく「コミュニティの創り方」みたいなことを聞かれるのですが、コミュニティは創るものではないはずです。コミュニティは見えていないけど実はそこにはあって、それを可視化することが大切だと思っています。オーガナイザーはそのコミュニティに寄り添う役割だと思います。TWDWも僕が創ったコミュニティではなくて、震災を経て多くの人の働き方や人生観が変わっていくのを知って適切な”場”を用意した、という感じです。
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黒田:コミュニティは「創る」というよりは「発見する」という感じなんですね。社会の背景にどんな空気感があるのかを感じ取って、それを切り口に興味関心のキュレーションを行うような感じがします。
横石:わざわざ勤労感謝の日にディズニーランドの入場料と同じくらいのお金を払って来てくださるわけで、意味性がある取り組みだと感じています。働き方の雰囲気や潮流を提示して、皆で考えて動いていくことができればなと思っています。
黒田:新会社の「& Co.」ではコミュニティを主軸に事業を行っていくのでしょうか。
横石:それだけではなくて、どちらかと言うと企業の課題を解決するのがメインですね。黒田さんは新規事業の立ち上げをされているので分かると思いますけど、企業には事業以外にもブランディングや人材など色々と複雑な課題があって、その課題解決のために小規模のプロジェクトチームを組織するケースが増えてきていますよね。僕はそのプロジェクトに呼んでもらう形で参画する仕事が多いです。
黒田:ある意味で企業内のコミュニティ運営ですね。チームをプロジェクトがうまく進むようなコミュニティにすることで、プロジェクトの成功に寄与する感じ。
横石:企業勤めしていたときに感じていたのですが、社内のメンバーだと意外と言いたいことが言いあえないじゃないですか。「僕はこれがしたい!」みたいなことを個人が遠慮したりして、強くは言えない状況もあると思っていて、そこに第三者が入ることによって「そうそう、それがやりたかったんだよ」という意志を表明できるようになったりするのかなと。もちろん痛いところを突いてみたりもしますけど、そうやって物事がスムーズに動いていくようにするのが外部パートナーとしての私や黒田さんのような人間の役割なんだと思います。
黒田:上司や社内政治の関係もありそうですよね。横石さんの立場はファシリテーションに近そうです。
横石:確かに。どれだけ僕らがアイデアを出しても、決めたり実行するのは中の人なので、その人達が意志や思いを持たないと実現することはできませんね。だから、その熱を見つけ出して汲み取り、一緒に育てていくファシリテーションが「& Co.」の役割と言えるかもしれません。
「& Co.」という企業名には横石さんのコラボレーションにおける哲学が表現されています。
黒田:私はよくGROWという頭文字でファシリテーションを進めます。まずプロジェクトのGoal(目標)を定めてReality(現実)を認識し、Gに至るOptions(選択肢)を検討していきます。でもそれだけでは足りなくて、最後にWill(意志)を持ってもらうようなコミュニケーションが必須だと思います。
横石:僕も誰かにやれって言われるのが一番苦手なので、意志の重要性を感じています。そういう意志や熱狂を生み出すことでプロジェクトを推進するお手伝いができるのは嬉しいですね。
黒田:「& Co.」は横石さん一人でやっているんですよね。パートナーとしてはどういった方と組んでいるのでしょうか。
横石:伝え方にまつわるご相談をよく頂きます。伝え方ひとつで注目され方が違うし、問題提起の質も変わってくる。そういった意味では、伝えることを生業としている、コピーライターやアートディレクター、デザイナー、最近はエンジニアとチームを組んでやることが増えています。人材採用についても問題意識はありますが、あくまでブランディングの結果として適切な人から応募が来る状況を作ることが大切だと思っています。
黒田:今の企業に必要な「伝え方」ってどのようなものでしょう。
横石:自分の仕事と逆のことを言うようですが、モノを作る会社だったらそのモノが一番大事だし、アーティストだったらその作品だし、そこにきちんと注力できる状況を作ることが大事だと思います。オフィスの環境が良いとか福利厚生なんかは副次的なことですよね。経営者はきちんとそういったモノやサービスに注力するべきだと思っていて、それ以外のコストや労力は減らしていくべき。営業や採用、ブランディングにかける費用は減っていく方が良いと思っています。
黒田:うーん、いいモノを作っていればそれが売れるというのは確かに理想的ですね。
横石:だから、究極、僕は消えてなくなったほうが良い(笑)企業がモノやサービスに本質的に注力した結果、残り少ないリソースでも成果があがるようなサポートができれば良いなと思っています。
黒田:なるほど。ですが、職人的に「いいモノを作れば売れる」という考え方で来た結果、日本のモノづくりは窮地に立たされていると感じています。きちんと生活者に伝えていくという活動こそ、企業の中心的な活動になっていくんじゃないかと私は思っています。
横石:もちろんそうなんだけど、昔ながらの方法は通用しなくなってきたので、僕としてはブランドのもつ機動性・柔軟性を高めたい。ブランドをつくったり、再生するとき、PDCAを細かくしていくLEANなやり方で、カタチを柔軟に変えていくアプローチが必要ではないでしょうか。企業という組織がスピードをあげていくためにもユニットやプロジェクト単位で小規模な単位で動く必要がある。
黒田:今のやり方を変えなければいけないということですね。そうするとそこに横石さんの介在価値が出てきそうですね。ユニット単位で部分最適になりがちなところに一本の横串を通す役割です。
横石:まさに。会社自体もコミュニティで、そこにあるプロジェクトもコミュニティなわけですよね。コンダクターなのかファシリテーターなのか分からないけど、そういった役割は企業の中でも、社会の中でも必要とされていると感じています。黒田さんも言われてるかもしれないけど、傍から見たら「何やってんのか分かんない」という感じですよね。黒田さんはどんな表現でご自身のことを伝えていますか?
黒田:私は自分のことを化学反応でいうcatalyst(触媒)だと伝えることがあります。原料はそこにあって、原料同士の反応を起こすきっかけを与えるイメージです。
横石さんは、人生も企業も花瓶のようなものであると語る。
横石:僕は”花瓶”みたいなものだと伝えたりします。というか、人生も花瓶みたいなものでだと思っていて、そこに花を添えることもできるし、骨壷にすることだってできる。ただの器なんだろうけど、そこに「花を添えたらキレイなんじゃないですか」と言う人がいると「そうか、花を添えてみようか」という気になったり。「& Co.」も同様の考え方で、「&」の前に何かが入ることが前提の表記になっています。企業も花瓶みたいなものだと思うんです。
黒田:例えば「Tiffany & Co.」みたいな感じですね。「創業者と愉快な仲間たち」という意味合いだったと思います。
横石:これからの時代、例えば「Kuroda & Co.」というような、個のアイデンティティを重視した組織は増えていくと思うんですよね。個人が主体性を持って働くようになるし、企業のアイデンティティも企業内の個人に寄っていく。私自身も色んな外部のパートナーと一緒に仕事をやりながら、そういった主体性をもった方々に寄り添いたいと思って「& Co.」という名前にしました。人生や企業という花瓶に花を添える手伝いがしたいなと思っています。「横石さんの事業ドメインってなんですか?」と聞かれても答えられない類の仕事です。
黒田:ドメインって感じじゃないですもんね。
横石:そうなんですよ。今度設立記念パーティーやるんですけどその辺りをどうやって説明しようかなあと困っています(笑)
黒田:まんま伝えるのが良さそうですね。横石さんはその「花瓶に花を添える」という活動を通じてこんな世の中にしたい、という想いはありますか?
横石:TWDWをやって感じたのは、世の中、ほんと面白い人って多いですよね。フリーランスって表現自体がもう古いのかもしれないけど、人それぞれの思いとそれぞれのスタイルで仕事をする人が増えていくと思います。それは企業の中でも同様に。一人ひとりは社会的に強い立場ではないかもしれないけど、そういう人たちが増えていけばコミュニティとしてパワーを持ってくるはず。そういう変な人たちのそばで何か変なことを一緒にやっていきたいなと思っています。具体的に何をやるかは決めないですけど(笑)
黒田:その話も花瓶みたいですね。そこに何を入れていくのか楽しみです。
横石:その花瓶が骨壷にならないことを祈っています(笑)あと、フリーランスというスタンスが一時的なトレンドやムードで終わってほしくない。アメリカの就業人口の1/3がフリーランスと言われるように、日本でも働き方や生き方の選択肢として普通になってほしいですし、会社員かフリーランスかという二者択一でもなく、その2つの間に生まれきているグラデーションも楽しめるように社会であってほしい。
黒田:フリーランスという言葉がその人を説明できる言葉ではなくなっていますよね。「私は会社員です」というのと同じくらい情報量が少ない。私も名刺にはフリーランスって書かないですね。
横石:フリーランスという働き方、もっと一緒に考えていきたいですね。TWDWで一緒にやりましょう。
黒田:今から楽しみです。今日はどうもありがとうございました!
<お知らせ>
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インタビュアー
フリーランス 新規事業ディスカッションパートナー
日本のキャリアの多様性を高めるために自分自身を実験台にしている文系フリーランス。ハットとメガネがトレードマーク。ベンチャー社員×2→起業→キャリアカウンセラー→フリーランスというキャリア。主な生業はディスカッションパートナーとビジネス顧問で、新規事業の立ち上げを支援しています。個人では「文系フリーランスって食べていけるの?」というメディアを運営。詳しい経歴はこちら。