後編ではDanile氏のデザインやテクノロジーに対する考えを伺います。前編はこちらから。
デザインは「上流」から関わること
ーなるほど、少し質問が変わるのですがデザイナーとして17年間業界にいると思います。変わってきたことは何でしょうか?
Danile氏:たくさん変わったことはありますね、実は昨日、それについて考えていました(笑)働き出した2000年ごろはインターネットがまだ子供時代で、駆け出しでした。PCも新しかった時代です。携帯電話を持っている人も少なかったし、プラグに繋いでいましたね(笑)
PCはナード(日本で言うオタクのような人のこと)が使うもので、ゲームをやるものでした。 すごくニッチだったし、ネットも遅かったです。
だからこそ私はその分野に惹かれて、 自分の世代ではテクノロジーが世の中を変えていくように見えたのです。
初めの頃、とても興味深くて、ネットを使って新しいコトやモノを作る人が出てきました。 他人同士がネットで繋がったり、自分のやっているコトを共有したり、今までにはなかったことでバブルのように起こっていました。
そのあとで製品同士が繋がったり、AIと呼ばれるものが徐々に出始めて、面白そうなハードウェアがデジタル空間に入ってきて、PCはますます小さくなってきて。いろんなことが変わったと思います。
私の昔のころは、デザインは「可愛くする」とか「見た目を良くする」という考えがありました。ただ今は、もっと複雑で、他とどう関わるか、戦略的思考の観点から「デザインは上流から関わることだ」という理解や役割に変わっていると思います。
例えば、Appleなんかがそういった考えを推し進めていったと思いますね。よく人が注目しているのは「Appleのデザインは製品を成功させる一部、彼らがどうデザインを使ったのか」という点です。
それで、ユーザー中心設計やユーザーエクスペリエンスデザインが多くの会社に知れ渡って、 それがサービスとして始まり、こうするすべきだみたいな哲学というかトリックになった感じですね。
ーキャリアの初めはグラフィックデザイナーやプロジェクトマネージャーとして働いていましたよね?しかし、最近の作品を見るとインタラクションデザインが多いと思います。なぜその分野に興味を持ったのですか?
Danile氏:グラフィックデザイナーとして働き始めた頃、それは2次元上でのデザインであって、スクリーンの話なんですよね。それほどインタラクションがあるわけではないんです。ボタンを押して、画面が変わって、ボタン押して、画面が変わっていくってのが基本なんですけど。
それでビジュアルデザインに興味があって、タイポグラフィとかレイアウトとかですね。発見したことの1つはタイポグラフィの働きやそのスキルの上手い人、下手な人の差などですが、自分はより複雑な仕組みに興味があると気づいたのです。
何かすることで反応があって、それを受けてまた反応する。より複雑で多次元なものが好きだったんですね。
より大きな質問、つまり「なぜ人がそういうことをするのか」とか、「解決するべきニーズは何なのか」とかそういう質問です。見た目をどうこうするって感じじゃなくてね。それにはシステム思考やインタラクションデザイン、サービスデザインで解決できるのはないかと感じたのです。
多様な考えを導く
ースペキュラティブなデザインも多く作られていますね。そもそも、Danielさんから見たスペキュラティブデザインの役割と目的は何でしょうか?
Danile氏:私の考えですが、スペキュラティブデザインの概念は「テクノロジー」がどう自分たちの生活に影響するかでした。 スペキュラティブデザインは高速で進化するテクノロジーによって「多様な考え方」を推し進めようとしています。
多くのコトは最初に予測するのがとても難しい。スペキュラティブデザインは、なぜこのテクノロジーがまだマス市場に出ていないのかということです。つまり「未来のシナリオ」を作るのです。
伝統的なデザインでは解答を出そうとしますね。スペキュラティブデザインでは、答えより問いが重要になります。問いを投げかけることで人に考えさせ、答えを探させます。
今の時代、ある意味なんでも可能な時代です。十分な資金と時間と調査があれば解決できます。じゃあなんでもできるとして、何をするべきなのか?デザインが解決することは「可能性」と「望ましさ」と言えると思います。そして、その間のちょうどよいバランスは何なのか?できるコトが望んでいるコトではないですよね?
先端テクノロジーがどんどん開発されて、その強大なテクノロジーに対して解決するべき倫理的な問題もそこにはあります。
テクノロジー開発することで、社会に応用することの責任もあります。例えば車を開発することで、大気汚染が発生するとか、核技術を開発することで長期間に渡って地球に対して影響があるとか。バイオテクノロジーやAIも似ている思います。遺伝子が選べるとしたらどうするのか、クローン人間とかね。答えるべきたくさんの大きな問いがありますね。
ーテクノロジーは大きいインパクトを持っていますね。例えばDanielさんが東京にいて、電車に乗っているとします。電車の80%の人はスマホに釘付けですよ。ホントに。人は「スマホ」を使っていると思っていますが、実際は「スマホ」に人が使われてしまっているのではないかと思います。
テクノロジーは人間の可能性と能力を拡張してくれるだけ、どうやってテクノロジーを社会に、人に応用していくかが大切な問いだと感じています。
Daniel氏:そうですね、クライアントもテクノロジーを開発しますが、使い方を完璧には理解していないと思います。ある種ものすごく複雑で相互作用があって、理解の範疇を超えていきますからね。
プラットフォーム系のテクノロジー、たとえばFacebookやGoogle、Twitterなどはフェイクニュースなんかを流せる。これがプラットフォームのネガティブな側面だと理解し始めている思います 。楽観的な側面から作っていると思っていますが、 情報を変え、意図的に作れるということでもあると思います。
プラットフォーム企業も利益は必要だし、時にはユーザーのエンゲージもいる。解決するべきいろんな問いがそこには溢れていると思います。
ー次のステップを教えてください。
Daniel氏:ん〜なんでしょうね、関わっていることに興味もあるし、 自分の情熱がある職業で少なくとも得意なコトをしていると思う。
ビーチでココナッツを売ってもいいかな?(笑)極端だけどね(笑)まあでもデザイナーとして複数の分野を学んだから「他人が持っていない視点」でラディカルにモノゴトを変えたり、デザインを学んでいる人に良い質問を投げかけることで面白い視点を作れると思っているよ。
個人的には、特に冒険的なデザインの分野を使ってのデザイン教育には興味があるね。ビジネス面からすると制限がたくさんあるし、逆にそれがなければもっと自由に大きな問いを探して、デザインできると思うんだよね。
スペキュラティブなデザインがビジネスの分野に持っていけるかどうかを考察しています。挑戦でもあるし、どう違う形で繋げられるか興味があるね。
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グラフィックデザインからスペキュラティブデザインまで幅広く、かつ深い知識を持っており俯瞰的視点からお話頂きました。分野を軽々と「越境」し活躍する彼の活躍が楽しみです。
前編はこちらから。
ライター&キュレーター
小檜山 諒 フリーランスライター&キュレーター
世界中の面白いアイディアを集めたブログを運営中。「問いが変われば、答えも変わる」を信じて、アイディア発想など研究しています。ハッとさせられるようなアイディアが大好物。アイディアデザインコンサルタント。モットーは「LESS IS MORE」