もし普通の人が「持っていない臓器」を持っていたとしたら、人間と呼べるだろうか?
もし手足が「すべて義手や義肢になった」としたら、まだ人間だろうか?それともサイボーグと呼ぶべきだろうか。
その違いはなんだろうか?彼女に会った後「人間」と「人間ではない」の境界が溶けていくよう感覚を覚えた。
デザインと人体の奇妙な関係を作るデザイナーがロンドンにいる。Agi Haine氏はTED ×Maastrichtや昨年開催されたKikk Festival 2016、Next Nature Talkshow for Dutch Design weekなどに登壇する新進気鋭のデザイナー。シリコンなどで作られた人工の皮膚を使って人間の未来を問いかける。そんな彼女の生い立ちから、デザインとは何か?まで話を伺った。
まずは彼女の作品たちを簡単に紹介しよう。
未来の「変わった」赤ちゃん
この作品の名前は「TRANSFIGURATIONS」(変容)
刺激が強いためイラストで表現しています
こちらは頭部の皮膚を変容させることで表面積を増やし、体温の調節を容易にするもの。地球の温暖化で体温の調節が難しい赤ちゃんがモデルとなっている。
臓器を助ける臓器
心臓がけいれんし血液を流すポンプ機能を失った状態を心室細動という。この場合、AED(自動体外式除細動器)などを使って一定のリズムに心拍を戻すのだが、その役割を果たすのが以下の臓器だ。
刺激が強いためイラストで表現しています
電気ウナギの細胞を使い、除細動を感知すると電流が流れる仕組みになっている。
どうしてこんな作品を思いついたのか?はじめにそんな質問を投げかけてみた。
テクノロジーが人間の体に入り込んできている
Agi氏:ほとんどの作品は人体に関するものですね、バイオメディカルヘルスサイコロジーが好きなんです。実は私の家族は彫刻家なんですよ(苦笑)それが影響していると思いますね、自然と人体に興味があったのだと思います。
体って未知の領域でもあるし、何が起こっているのかな〜と考えたりしています。ホラー映画も好きで、その2つのつながりというか、外側で何が起こっているのか、逆に内側で何がおこっているのかどう体験できるかということに注目しています。
−−なるほど、具体的にはどうやって作品のインスピレーションを見つけるのですか?
Agi氏:それは多様な調査からですね。シナリオや物語を作ること、 つまり別の現実ですね、それに興味があります。
私なりの方法としては、 たくさんのYoutubeビデオを見ましたね。ホラー映画の作り方とか。それでコメディから発見があって、それをクリティカルに扱ったりという感じですね。
ーー多くのデザイナーはもっとテクノロジー的な考えしますよね?指にICチップを入れて、オイスターカード(日本のSuicaのようなICカード)代わりにしようとか。でもAgiさんは全く別のバイオ的な視点から取り組んでいると思います。
Agi氏:その点がオモシロイと思っていて、テクノロジー自体の動きが徐々に人間の体に何らかの形で近づいていると思います。ナノボットとかですね。
ーーサイボーグみたいですよね。
Agi氏:どこがサイボーグと人間の境目となるのか面白いですね、たとえば心臓のペースメーカーを入れていたらサイボーグ?いや手術したらもうサイボーグとかですね。どこが人間の境目なのか考えるのは楽しいですね。
ーー展示会をやられていますが、来場者の反応はどうですか?
Agi氏:ん〜色々ですね(笑) まあでも多くの反応は、笑った後にちょっと考えるみたいな感じです。 これはとてもいいことで、来場者は何を投げかけられているんだろう…と考えていると思います。
これは正しい見方だとおもっていて、作品と自分の体の関係を感じているのだと思います。
たまに否定的な人もいますが、そういう意見も排除しないように心がけています。コメント欄を読むのは興味深いですね(笑)
ーー作品を作る上でどんな苦労がありますか?
Agi氏:こういった作品に対して人はそれぞれの見方を持っていて難しいのですが、ある意味こういったデザインを通して難しい質問を自分自身に問いかける事ができているとも思っています。
困難としては、新しい研究レポートやデータを参照しながら、未来がどんなふうに変わっていくか想像する。その中で、自分のスタンスや見方を表現することだと思っています。
ーーどうやって乗り越えているのですか?
Agi氏:たぶんコラボレーションですかね、今は博士課程にいて、トランスディシプリナリティグループ(科学と現実世界が交わるところで多種の研究者が共同で研究する)というところにいるのですが、非常に多くの研究者がいて、スーパーバイザーは歯医者さんだったり、メディア論説家、哲学者、神経学者などですね。
様々な角度から意見をもらえるし、全く反対のアイディアを持っている人とコラボするのは楽しいですね。
ーーちょっと批判的な質問になってしまうのですが、もし新しく臓器を人間が得られるとしたら、それがきっかけで差別は起こらないでしょうか?たとえば、心臓を買うことができて200年生きれる人と100年しか生きれない人が出てきてしまうような。
Agi氏:重要な質問ですね、どうテクノロジーを社会に導入していけるか、その効果がどうテクノロジーと人間に関わっていくのか考えていかなければいけないことです。
残念なことですが、薬を例に取ると、裕福な人は薬を買えて、そうでない人は買えない。最近友人がアメリカのレポートを持ってきてくれたのですが、ホームレスの人が薬を買えないために、いかに病気になっているかと言うものでした。政治的な結果でもありますけどね。
あとは豊胸施術とかですね、やりたいという人もいれば、必要ないという人もいます。私がよく使っている言葉ですが「ニーズ」と「欲望」の遊び、と言っています。
ここにはたくさんのレイヤー(層)があって 、考えるのが難しいのですが、ある意味、ここに作品を通して私が作り出したい問いがあると思います。
世界の色んな所で展示会をやると、この土地の人はどんな風に理解するのだろうと興味を持ちます。
ーーなるほど、では最後にAgiさんにとってデザインとはなんでしょうか?
Agi氏:おお〜難しいですね〜。いろんなデザインがあることは理解しているのですが、ん〜議論を促進してコミュニケーションを活性化させることですかね。アイディアを共有する、交換するという上でデザインはとても重要なものです。
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実は彼女、前回紹介したDaniel Disselkoen氏に紹介され今回インタビューさせてもらうことになった。彼女のWEBサイトを彼に見せてもらった時、なんて人をDanielは紹介しようとしているのかと思ったのが正直な感想だ。
が、実際にインタビューさせてもらうと作品と人柄のギャップがあり、彼女が何をどう考えているのか少し触れられたように思う。
解決のためのデザインではなく、問いのためのデザイン。そして議論を巻き起こす。そんな未来のデザイナーの姿が垣間見えたように思えた。