はじめまして。青木崇史です。
代表の長沼さんからお声がけいただいたときに「やります!」と即答したのが功を奏し、Social Design Newsの寄稿メンバーに参加させていただくこととなりました。よろしくお願いします。
最初に自己紹介を。都内に相方と猫と一緒に住んでいまして、事実婚歴8年。10年ほど勤務した会社を昨年3月に退職しました。 現在は「ボルネオ保全トラスト・ジャパン」というNPO法人の理事兼事務局長を務めています。
ファンドレイジングが主な仕事ですが、小さな事務局なので広報、営業、ワークショップ講師、会計、総務などなんでもやっています。
ボルネオ保全トラスト・ジャパンは、ボルネオ島の自然環境保護、生物多様性保全をミッションとして2008年に創立されました。 1980年代以降、パーム油を作るためのアブラヤシ・プランテーションが拡大したことでボルネオ島の熱帯雨林は急激に減少。正比例して野生動物の数も激減しています。
ボルネオ島には固有の動物や植物も多いのですが、地上から消滅してしまえば、「いのち」は二度と戻ってきません。 あまり知られていませんが、日本もパーム油を大量に消費している先進国のひとつです。プランテーションになってしまった場所を森に戻すことはできなくても、せめて残された森を保全し、美しいいのちの営みを次の世代に引き継ぎたい。そんな思いで活動を続けています。
先人たちの努力のおかげで、今は「NPOではたらく」という選択肢もわりと普通になりましたが、それでも理解されないことも多いです。僕も親に転職の話をしたときには「なるほど、仕事の内容はわかった。で、本業はどうするんだ」というありさまでした。
親にとってはNPOという組織自体がわかりづらかったようで、きっと今でもよくわかっていないと思います。それも無理はないかな、と。僕自身ですら3年ほど前までは、NPOでメシを食っている自分なんて想像できませんでしたから。
転職してNPOで働き始めた理由
PHOTO: impossible to possible from Shutterstock
そんな僕がどうして、今ここにいるのか。きっかけは4つあります。 ひとつめは経営大学院に通ったこと。
3年ほど前に妻が1年間上海に駐在することになり、突然週末がヒマになりました。そこで以前から気に留めていたMBAを取得しようと、グロービス経営大学院に入学しました。
グロービスには自分の「志」を掘り下げる独特の授業があります。自分は一体何者なのか、人生を賭して成し遂げたいことは何か、といったことを考え抜く授業です。
もともと僕は「欲望の追求はすべからく善」という考え方に懐疑的です。他社より少しでも多くの利益を追い求めることだけを考える毎日が本当に自分のやりたいことなのかという悩みに、この授業を通じて真剣に向かいあえたことはとても大きかった。
ふたつめは、自然や動物への関心です。 幼少時代から、生き物に対しては特別な感情を抱いていました。動物図鑑を愛読し、『野性の王国』や『わくわく動物ランド』といった番組に夢中でした。 海外旅行では必ず動物園を訪れるし、普段の生活でもできるだけ殺生はしません。蚊やゴキブリもなんとか外に逃がそうとするので、家族から嫌がられてましたが。
いのちに順序づけることが基本的に嫌で、「益虫」「害虫」と人間の都合で虫を分けるのも嫌いだし、人間が生き物の中で一番偉いなんていう考えはとんでもないと思っています。上も下もないんです。まあ愛猫は完全に僕を下にみていますけど。
みっつめは、東日本大震災です。 当時は瓦礫撤去や泥さらいをしたり、現地で知り合った被災者の方に物資を送ったり、ボランティア団体に所属したり、寄付をしたりとできる範囲で活動しました。 とにかく目の前の一大事を少しでも改善したい。そのために今、自分は何をすべきか。そんなことを考えながら行動するうちに社会貢献事業やNPOのあり方について学ぶ機会も増えました。
そして最後の決め手となったのは、転職活動中に受けたあるショックです。これは本当に大きかった。
まだNPOで働くという踏ん切りがつかずに、民間企業への転職も模索していたときのことです。 自分が「会社をふるいにかけている」ことに気づいたんですね。 待遇や条件、給与で会社を選ぶのは転職活動としては普通かもしれない。でも、志を持ってするべき仕事を「消去法」で選んでいるという現実。 これに気付いたときのなんとも言えない虚しさが僕を変えました。
「これではいけない」と思い直し、このときをきっかけに民間企業への転職は一切考えなくなり、社会貢献の仕事、環境保護・保全の活動をすることにしたのです。 ほどなくして、運良くこの団体に出会うことができました。
一般論で言えば、NPO法人は民間企業より待遇や給与で不安定なのは事実でしょう。それでも飛び込んでみたのは、「経験してみなければ本質はわからない」という思いがあったから。 前に道がなければ自分で作れそうだ、という根拠のない自信もありました。
月並みですが、やらずに後悔するよりはやってみようと。 事務局で働き出して約10ヶ月。「やっぱり普通の会社に転職しておけばよかった」と後悔したことはただの一度もありません。
さて、Social Design Newsの読者のみなさんの中には、NPO法人で働くことに関心がある方もいると思います。新卒ですぐにNPOで働きたい、なんて方もいるかもしれません。 そこで次回は『NPOで働くために大事な3つのこと』について書こうと思います。
Author Profile
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特定非営利活動法人 ボルネオ保全トラスト・ジャパン 理事/事務局長
青木 崇史 -
1974年生まれ。中央大学商学部およびサザンイリノイ州立大学マスコミュニケーション学部卒。専門商社、IT企業でのSEを経て、国際会議運営企業で翻訳関連業務に従事。並行してグロービス経営大学院に通学し、MBA取得見込みと同時に退社(2014年3月取得)。
その後、かねてより強く関心のあった自然環境保護・野生生物保全活動に取り組むべく特定非営利活動法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンの理事兼事務局長に就任。
私生活では動物と美味しいものとバンド活動を愛する。 現在はガレージポップバンド The Geckous でベースを担当。先のことを考えずやりたいことに飛びついてきた人生でも気づけば一本の軸で繋がっているものだ、と不思議な導きに感謝する日々。