PHOTO: their little children from Shutterstock
こんにちは。清原です。
このSocial Design Newsへの、2回目の寄稿となります。
私は1972年生まれ、いわゆる“ジェネレーションX(エックス)”と言われる世代です。
“ジェネレーションX”とは、米国で1960~1974年の間に生まれた世代と言われていますが、日本で言う“団塊ジュニア”と少し重なるところがありますね。
今回は、「親になった私たちX世代が、次世代のためにできること」について書かせていただきます。
私がこのテーマを追求し始めたのは、10年前に長男が誕生したときからでした。そして、私が獲得したキーワードが、「機会」「時間」という“幸せの基準”です。
まずは、こうした考えに至った背景に、少しお付き合いください。
私たち世代を育ててくれたのは、いわゆる団塊世代の親たちです。私たち世代は、とかく色んなレッテルを貼られてきました。
「ぜいたくな時代に育った未知(X)の世代」
「ミー・ジェネレーション(個人主義で内向的)」
「無気力、無関心、無感動世代」
「ポストバブル世代」
「ロスト・ジェネレーション」....などなど
懐かしいですね。とにかくポジティブな言葉はあまり聞いた記憶がありません(笑)。
でも実際、客観的に見て、私たち世代はたくさんのものを与えられてきたように思います。
今は昔、経済も右肩上がり、市場の規模も広がるばかりの時代がありました。そんな時代のコアを形成していた親世代から、私たちが与えられてきたのは、乱暴に言ってしまうと「モノ」と「カネ」です。
実際、調べてみました。私が高校生の頃(1990年頃)の平均世帯所得というのは、今の私たち世帯よりも軽く100万円以上多く受け取っていたそうで、会社員であれば社会保障も充実、60歳で定年を迎えても悠々自適の生活を送ることができたのです。
つまり「将来は明るい」と誰もが思える時代であり、「今使えるお金」を確実に多く手にできていました。
そして、時代は変化し、市場も環境も、質・量ともに大きく変わっていくなかで、年間の平均所得はゆっくり着実に減り続けました。現役世代の絶対数が減ることで社会保障も脆弱化し、つられて定年は延長、老後の年金額も減少、ついでに人口も減少…。
とにかく、様々な場面で規模は小さくなっていくばかり。そんななか、私たち日本人はあの日を迎えました。2011年3月11日です。
大げさに言うと、2011年3月11日を境に、幸せの基準は、それまで永く続いてきた「モノ」と「カネ」から、「機会」と「時間」に新たにシフトしたように思います。
こうして私たちX世代は40歳を迎え、いま親から「子育て世代」をバトンタッチされました。
正直に思います。自分が親世代から与えられただけの「モノ」も「カネ」も、子供たちには与えることはできないかもしれない…。これはもちろん、年々上がり続ける給与と、それを支える組織が盤石であったなら、そうは思わないでしょう。
私には今、10歳と7歳の息子たちがいます。
親になってあっという間に10年が過ぎました。思えば長男が生まれたあのとき、私がまず思ったのは、皆さんとおそらく同じことです。
「彼の人生にとって、私はどんな良いことをしてあげられるだろうか?」。この思いは、その後次男が生まれてもずっとこの10年、私の頭をめぐっています。
まず触れておきたいのは、世代に関係なく一貫して言える「人が生きる目的」です。
人は何のために生きるか。私は、一言でいうと「幸せになるため」だと思っています。あっけないくらいシンプルですが、これは私が固く信じていることです。
そして、幸せになるための手段、いわゆる「基準」が時代によって変わってきているだけなのではないか、と。
私たちはここ3年間で、世の中の価値観がはっきりと変わる様子を目の当たりにしてきたし、その渦中にいた当事者なのです。
「機会」と「時間」から咲き誇る「希望」
PHOTO: Vintage hourglass from Shutterstock
「機会」と「時間」という本題に戻ります。
「機会」とはつまり、「体験」によって生まれる選択肢の温床です。なるべくたくさんの体験をさせてあげることで、子どもたちにとって将来の選択肢がどんどん広がっていくはず。様々な体験に触れる機会が多いほど、人生は豊かになるのではないでしょうか。
ちなみに、私が共同運営している“Linctanc(リンクタンク)”という組織は、そんなたくさんのチャンスに子どもたちが触れられるプラットフォームとして、立ち上がりました。
ここでは、「就業体験」をキーワードに、子どもたちが主体的にやりたいことを見つけていくのを支えています。その道のプロフェッショナルたちに触れることで、「世の中にこんな素敵な仕事があったんだ」、「この仕事はこんな人たちに喜んでもらってるんだ」「お父さん、お母さんの仕事ってすごい」と、将来への「希望」を持ってほしいとの願いが込められています。
もちろん就業体験にかぎらず、彼らにどんな体験をさせてあげられるか、それを家族一緒に考える事自体も、素晴らしい「機会」になり得るのではないでしょうか。たくさんの体験を育んだ子供たちは、自分なりの人生を歩んでいくとき、その指針を自ら作っていくはずです。
次に、「時間」です。あふれるほどのおカネを子どもたちに与えてあげるのは、正直、私には難しい…。なら、それに代わるのは、時間と言えます。おカネに代わって、ちゃんと計測ができる「豊かさの基準」です。おカネをかけるよりも、「どれだけたくさんの時間を彼らのために使えるか」です。
これは、ただ子どもと同じ空間にいる、というだけではありません。例えば、外食をやめて、慣れない料理を子どもと作ってみる。買ってくるのでなく、時間をかけて子どもが使う本棚を日曜大工で作ってみる。
洗車場に行かないで、わざわざ自家用車を子どもと手洗いしてみる。子どもの将来について夫婦でじっくり話してみる。家族イベントのアイデアを考えて情報を集めてみる。
教育について同世代の父親たちと話してみる。自分をどんな考えで育ててくれたのか、自分の親に聞いてみる...などなど。
「効率の悪いことをわざわざ時間をかけてやってみる」というのは、プロセスそのものを楽しむことにおいて、意義があるのではないでしょうか。
私も40才代ですので、世のお父さんと同じくそれほどヒマな方ではありません。でも、時間をできるだけたくさんつくる工夫をしています。その時間の多くは、なるべく家族のために使うと決めています。
そして実践しているのが、「交換日記」と「対話」です。忙しく、子どもたちと顔を合わせられない日もあります。「交換日記」は、そんな日の一日をまるごと子供たちと共有できます。疲れていると家に帰ってもすぐに寝てしまいたくなるのですが、時間をかけてじっくり今日の子供たちの一日に、日記を通して耳を傾けます。
すると、仕事ではなかなか起きない感情が生まれます。おおよそ仕事ではあり得ないような、効率とは無関係の世界に浸ることで、自分を取り戻したような気持ちになることがあります。「子供たちもがんばったんだな」と、じっくり共感できる豊かな時間を味わえます。
そして、もし一緒にいられる時間ができれば、せっかくなら「たしかに今一緒にいる」という実感を子どもたちに持ってもらいたい。「今この瞬間は、お前たちに注目してるんだよ」と態度で示すのが、「対話」です。「今日はどんな一日だった?」「楽しかったことあった?」「助けてほしいことはない?」ということについて、「対話」をします。
いかがでしょうか。
「機会」と「時間」は、おカネがなくても、モノがなくても案外自分の工夫次第でつくることができるのではないでしょうか。
そして最後に、この「機会」と「時間」が生み出すものは「希望」である、とお伝えしたいと思います。
これは、思えば、私たちが親から与えられてきたものでもあるのです。「モノ」と「カネ」を与えられることで、少なくとも将来を悲観することはなかったと思います。「楽観」という希望も、もらっていたのです。
希望は、将来を生きる糧です。ただでさえ生きにくい時代と言われています。これからの時代、「機会」と「時間」をたくさん与えることで、彼らに希望を感じ続けてもらいたい。
それには、私たち自信が彼らに希望を持てる姿を見せないといけないと思います。私たち自身が、豊かでイキイキと生きる術を探すのです。工夫をするのです。その姿をいつも子どもたちに見てもらうのです。
私は、子どもたちにしつこいほど伝えていることがあります。「働くことは楽しい」ということです。もちろん私にだって、働くことは楽しいことばかりでなく、投げ出してしまいたくなるほどつらいこともあります。でも、子どもたちは素直です。「つらい」の一言が、子どもたちの仕事観を決めてしまうことさえあるものです。
「今日も楽しかった!」これを毎日言える努力。生きること、働くことに希望をもってもらう努力。親も精進が必要なんだと思います。
こうして見てみると、私たちX世代は、ちょっとした思考の転換が必要なんですね。「幸せの基準をそのまま受け継がず、創りだす」工夫と努力という意味で。
「カネとモノ」から「機会と時間」へ。
またあらためて、私たちに「楽観」という希望を持たせてくれた親世代に、あらためて深く感謝をしたいと感じる昨今です。
Author Profile
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BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ
Linctanc Ltd, Co-founder
神楽坂対話集会 主幹事
清原 豪士(きよはら つよし) -
1972年、岐阜県高山市に生まれる。関西外国語大学在学中、マドリード、ロンドンで語学を学び、卒業後は外資系商社、大手金融をはじめ、起業や個人事業など、多様な業種業態での働き方を経験。
主に30~40代の経営者やビジネスマンに向けて、ビジネス、教育、働き方をテーマに、セミナーや講演、コーチングを年間約250セッション行っている。キャリアアップや転職、起業、家族との関わり方など、強烈なインスピレーションと成果が得られると評価が高い。 また、これらひとつひとつのテーマを深く掘り下げ、個々のバリューの明確化と相互支援を行なうワークショップ「神楽坂対話集会」を主催、定期開催している。
また現在、小中学生に向けて、職業体験の斡旋をするプラットフォーム「Linctanc」を共同で立ち上げており、「リアルな体験」を通し、将来の職業選択の可能性を提供すべく活動をおこなっている。