次々と生まれてくる新しいビジネスやサービスを眺めていると、刺激を感じるとともに、自分が「今さら」始めることに躊躇してしまうこともあるだろう。
そんな時におすすめなのが、自分の本棚を眺めて、あえて古い本を読み返してみることだ。
なぜか? それは、少し昔に書かれた本は、事例が不十分(少なくとも、今、そのまま参考にはできない)だったり、そもそも存在しなかったりするため、読者の側に想像力を働かすことを強いてくる。つまり、能動的な読書・抽象度の高い思考をするためのきっかけとして、とても便利なのだ。
また、何冊か読んでみればすぐにわかるが、ビジネス書や経済・経営の本にかぎらず、そもそもの問題意識や社会のトレンドは、とうの昔に明らかになっており、今も昔も大きくは変化しない。つまり、次々と登場する斬新ですごそうなサービス、あなたをはるかに先行するか見えるビジネスも、大きなうねりに投じられた試案のひとつにすぎない、ということも実感できる。
大きなトレンドで見れば、「どう実現するか?」は常に未解決でありつづける。どんな時でも、世界は新しい試みを待っているのだ。
ちょっと古い本に意識的に触れることで、こんな風に前向きな気持ちになれるだろう。例えば、最近編集部が再読した本は次の3冊。
市場(プラットフォーム)について考える
『市場を創る ― バザールからネット取引まで』ジョン・マクミラン、2007年(邦訳)
ゲーム理論の研究者であるスタンフォード大学の経済学者、ジョン・マクミランによる本。その名の通り、市場をどう設計するかについての理論をまとめたもの。古い本だが、市場創造の実践者であるランサーズのファウンダー、秋吉氏が参考図書として挙げているため、最近知った方も多いかもしれない。
研究者によるものではあるが、著者は、電波周波数帯のオークションのアドバイザーを務めるなど、現実世界の精度設計にも深く関わった人物。事業としてプラットフォームを志向する方はもちろんだが、それ以外のすべてのビジネスでも、プラットフォーマーとの関わり方は戦略的に考えざるを得ない。つまり、実際の社会を作り・動かそうと試みる読者(=本サイトの読者のすべて)にとって、多くの学びがある本だ。
(あとがきにも、「経済学は実社会では役に立たない」というような発言に対する挑戦として本書をまとめた、とあるほど)
情報化の次にくる価値
ご存知の方も多い、ダニエル・ピンクの出世作(のひとつ)。翻訳は、大前研一氏が担当。アルビン・トフラーが提唱した、情報化時代=第三の波の次のビッグ・ウェーブだと感じた大前氏は、「第四の波」という邦題を検討したという。
問題意識はシンプルで、「21世紀にまともな給料をもらって、良い生活をしようと思った時に何をしなければならないか?」こんな問いに真っ正面から答えを示すことを目指して書かれた一冊だ。(この質問を著者は、「100万ドルの価値がある質問」と表現している)
・機能でなく「デザイン」
・議論よりは「物語」
・個別よりも「全体の調和」
・論理ではなく「共感」
・まじめだけでなく「遊び心」
・モノよりも「生きがい」
各章で取り上げられるテーマは上のようなもの。本サイトの読者には強い共感を呼びそうだし、また、新奇なキーワードではなく、人間が本来有している・求めているものを再確認することの重要性を説いているともいえる。
文章や説明の流れなど、本の書き方自体も感性に訴えるものになっていてとても読みやすい。ぜひ手に取ってみてほしい。
ネットビジネスを鳥瞰する
『ネット革命 これから日本市場で何が起こるのか』(田坂広志、1999年)
こちらも古い本。出版からすでに16年が経過している。本書ではたとえば、
・ネット革命によって生まれる顧客中心市場では、ありとあらゆる「ビジネス・モデル」が進化する
・自社商品を顧客に売りつけるための「マーケティング」は死語になる
・顧客の意思決定のために付加価値を提供する「ニューミドルマン」が重要になる
(ニューミドルマンは例えば、「キュレーション」と読み替えたらいいかもしれない)
このような指摘がなされている。これだけ読んでも、近年出版されている多くの本は、20世紀からほとんど変わりがないことに気づくだろう。
本書で議論されている16のポイントについて、その後登場したサービスとその盛衰を当てはめながら読むことで、とても大きな示唆が得られるはずだ。
【クエスチョン】
・自分の本棚の中から数年間開いていない本を眺め、直感的に1冊を手に取り、パラパラとページをめくってみよう!