先日、東京駅にてタダヤサイ.comの高橋さんにお会いし、話を伺った。
タダヤサイ.comには以前から注目していたのだが、この度、その立ち上げの理念、そして近況と今後の展望についても伺った。
さて、高橋さんは、その昔飲食店を経営しており、広告に頼りすぎた事業モデルに限界を感じたという。「携帯やスマホも普及し、より広告が必要になっている世の中で、良いものを作れば売れるという感覚では、経営は難しい」と高橋さん。
その広告費で苦労した思いを胸に、広告費を削減できるモデルを農業という、今最も支援の必要な分野で実現するためにタダヤサイ.comのアイデアを考えた。
タダヤサイ.comは、一言で言ってしまえば”無料の野菜を顧客に提供するサイト”であり、農家さんにとっては、新規顧客獲得のためのプラットフォームである。現在、タダヤサイ.com には16万人の会員が存在する。
今WEBサイトを見ると、こちらのようなサツマイモ、ネギの無料プレゼントキャンペーンを行っている。さつま芋、かなり美味しそう…。
高橋さんは、ECの業界の中で、楽天やアマゾンのようなプラットフォームが大きく儲けすぎていることが、問題だと感じており、最もコストの大きい新規顧客の獲得コストを削減するためのお手伝いをする!と意気込む。
ECサイトを経営する場合、通常は高い広告費をかけて集客をするわけだが、タダヤサイ.comはそうではない。「モノで集客をする」わけだ。無料プレゼントにはたくさんの申込みがあるが、当選者は、農家さんに選んでもらう。
このプレゼントは、上代で2,500円〜3,000円程度の野菜が多い。しかし、その原価は500円程度だ。出荷するにはカタチが悪く捨ててしまうような野菜の場合もあるが、もちろん、味には全く問題はない。こういった野菜で広く集客をしていくのである。無料のモノを広告に化けさせるのだ。
また、タダヤサイ.com内にお店を持つこともできるのだが、月々1万円を払えば、20%の手数料、無料で出店しているところは30%の手数料を取る仕組みとなっている。
一見、楽天やAmazonより高いじゃないか!と思うが、その後の取引は、農家側が直接顧客とやり取りをすることを推奨している。電話やメール、独自のECサイトで取引を行うように勧めるのだ。何度も言うように、タダヤサイ.comの役割は、新規顧客獲得なのである。
通常、大手のプラットフォームは「ポイント」を付けて、顧客が自社のプラットフォームから逃げ出さないように工夫をする。しかし、タダヤサイ.comはそのようなことはしない。どこまでも農家支援をするプラットフォームとして位置づける。
また、顧客にとっても、鮮度の良い野菜を安く買うことができるというメリットがある。
農家さんを支援するために、直接取引したいという顧客も少なくない。しかし、お気に入りの農家さんと巡り会うのは、実際のところそんなに簡単ではない。
その理由の1つが、JAの存在だった。例えば、JAグループ北海道の取引総額は、年間1兆2,000億円を超える。農家の野菜は全量買取が基本であるわけなので、顧客と直接つながるという手段は、邪道であった。
農業支援系のサービスがなかなかうまくいかなかった理由の1つがここにある。これほどまでに大きな影響力を持ったピラミッド型の組織が、日本全国の農業に大きな影響を及ぼし続けてきたのだ。
しかし、その最上位レイヤーであるJA中央が現在、解体に向け動いている。これが、農業全体の転機になるだろう、と高橋さんは言う。
ピラミッドの頂点にいる中央が解体するということは、全国に700以上あるJAが、独自で経営をしなければならなくなることを意味する。
実際に、最近、北陸のJAでは、これまでタブーであった米の格付けを行った。結果、そのお米はあっという間に売り切れてしまったのである。このように各JAが独自路線を打ち出し、農家を支援することが求められていく時代になる。
TPPの問題もあり、競争力のある農業を謳っていくこれからの時代おいて、農業支援は新たなフェーズに突入する。こういった動きを見据えながら、タダヤサイ.comは農家支援に新たな方法を提示する。
それは、タダのものを提供するという明確なコンセプトから発せられるのだ。今後は、タダザカナ.comやタダニク.comなどの展開も検討しているという。
高橋さんは次のように言う。「タダヤサイ.comは、農家さんにとっても、顧客にとっても好かれるプラットフォームを目指す。そうすれば、大手プラットフォームがやるように、巨額の広告費をかける必要もない。必ずこのようなモデルは広く支持を受けて広がると確信している」
現代は、プラットフォームが儲け、参加者が損をするモデルを築きがちだ。しかし、それを避けていかなければならないのが、これからの時代。
分散型の世界は、着々と進行している。ブロックチェーン技術を利用したサービスの普及について以前記事にしたが、利益最大化を目指すプラットフォームはいつの時代も最強ではないのである。
【参考】
・ブロックチェーン技術と分散型で動く社会
その分散型を意識したプラットフォームは、これから世界に多数登場するであろうが、その先駆けとして、タダヤサイ.comには頑張って欲しいと思っている。これからも注目しておきたいプラットフォームだ。